「あんたが授業サボるなんて珍しいじゃん」
一時間目の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。
ペントハウスで横になっていたら、わたしの顔を覗き込んだ彼と目が合った。
遅刻常習犯でもある彼は鞄を背負っている。
「…たまにはいいかな、と思って」
本当はあなたの顔を見たかったなんて言ったら、彼はどんな反応をするんだろう。
「あっそ。てかなんでジャージ?」
水浸しになった制服を彼に見せられるわけがなく、わたしはジャージ体操服に着替えていた。
「ちょっと転んじゃって、制服汚れたんだよね」
我ながら、ヘタクソな言い訳。
でも彼は疑いもせずに、ただ「ドジ」とだけ言った。
「あーだりい。一昨日、誰かさんのせいで歩き回ったからなー」
嫌みったらしくわたしを一瞥する彼。
すると突然、彼に髪を触られ、わたしはたじろいだ。
「なんで濡れてんの?」
「…あ」
「今日雨降ってたっけ」
「降ってない、けど」
言い訳がうまく思いつかない。
そんなわたしの様子をおかしいと思ったのか、彼は眉をしかめる。
「プールにでも落ちたん?」
「まさか。気にしないでいいから」
「ふうん。ま、あんたに何があっても俺には関係ないけど」
いつものお決まりのセリフ。
慣れてるはずなのに、今日だけは胸がちくり、と痛む。


