「莉子。大丈夫?」
菜々緒が貸してくれたハンカチで濡れた体を拭く。
怒りよりも、もはや虚無感だけが残っていた。
「許せない。なんでこんなこと平気でできるんだろ」
「菜々緒、お願いがあるの」
「お願いって?」
「伊織君に言わないで」
「どうして?羽生伊織のせいであんた、こんな目に合ったんだよ」
「伊織君には迷惑かけたくないから。それにあの人が言ったこと、あながち間違ってないしね」
ーどんなに頑張ったって、あなたは羽生君にとって遊びでしかないんだから。
なんだか、知りたくない現実を目の当たりにした気分だ。
「所詮、わたしはただの愛人だし、慎ましく生きなきゃ」
半分、本音でもう半分は冗談。
わたしが苦笑していると、菜々緒が悲しそうな顔をした。
自分の卑屈さが、嫌になる。


