彼の手はとても温かくて、

冬の寒さを忘れさせてくれる魔法のような手だ。







「ねえ」




わたしの手をぐいぐい引っ張って、前に進む彼。


「ねえ伊織君」

「んだよ」

「今、いないの」

「なにが」

「今、お姉ちゃんいないの」

「…は?」


彼の手が離れた。

もう少し繋いでいたかったな、なんてがっかりしながらわたしは答えた。


「お姉ちゃん、今結婚式の打ち合わせで栃木に行ってるの」



間が空く。

そして彼は大きくため息を吐いて、その場にしゃがみ込んだ。


「んだよ、人がせっかく…。お前、そういうことは早く言えよ」

「ごめん…なんか言い出せなくて」


だっていきなりわたしの家に向かうんだもん。

チッ、と舌打ちの音。


「あー、萎えるわ」


そういって近くにあったスターバックスでホットコーヒーを頼む彼。

わたしがじっと見ていると、嫌々ながら二人分買ってくれた。

テラス席に腰掛けて、目の前を歩く人々を眺める。

彼が買ってくれたホットコーヒーは冷えた体によく染み渡った。