「いらっしゃいませー」
威勢のいい声が商店街に飛び舞う。
そこから少し離れたところに、わたしの行きつけの『花椿』という和菓子のお店がある。
暖簾をくぐると、白を基調としたモダンな店内は癒しの空間が広がって、一瞬にして都会の喧騒を忘れることができる。
「智充君、いますか?」
スタッフが呼ぶと、厨房の奥から智充君が出てきた。
「おー!どうしたん?」
ここは智充君の家でもある。
そのことを知ったのは最近のこと。
外見に似合わず、和菓子職人を目指していて、将来このお店を継ぐために修行中だそうだ。
「久しぶりに食べたいなーと思って」
なんて。
本当はあのキスの真相を聞きたくて来たんだけど。
何も知らない智充君は嬉しそうに新商品をわたしに紹介する。
その度にわたしは適当に相槌を打ったりなんかして。
どうやって聞き出そう。
でも聞いてどうするんだろう、わたし。
結局口に出せなくて、智充君にすすめられるがままに和菓子を買ってお店を出ようとしたその時だった。
「人と会うって言ってたけど、もう用事終わったの?」
わたしはこくりと頷く。
「そっか」
「…あの、智充君」
「ごめんな」
「え?」
「もしかして見た?近藤のTwitter」
言葉に詰まる。
智充君、知ってたんだ。
「あれマジ焦ったわ。まさか撮られてたなんてな」
ハハ、と智充君はぎこちなく笑った。
よく見ると耳まで赤くなっている。
わたしもつられて気恥ずかしく感じてしまう。


