猫に恋する、わたし





「おい。どこ行くんだよ」



彼の止める声も聞かずに、わたしは洋室のドアを開けた。

真っ先に手にしたのはテレビ台の上にあったあのフォトスタンド。

お姉ちゃんと一緒に並んで写っている彼はとても幸せそうで、これ以上ないぐらい笑ってる。


この笑顔が、見たくてわたしは。




「おい」



わたしの腕を掴んだ彼の手を振り払う。「ーーんで」


「なんでお姉ちゃんばっかりなの?」




もう我慢ができなかった。



「わたしずっと伊織君のこと好きだっていってるじゃない。今日だってデートに誘ってくれたのもすごく嬉しかったのに。なのに”来なくていい”なんて言うし。智充君はただの友達で、あんなキス、わたしにとってはどうでもいい…!」

「…」

「伊織君がずっとお姉ちゃんのことがすきなのは知ってる。それでも振り向いてほしくて…。なのに谷口さんとキスしてるし。もう意味分かんないよ」



支離滅裂だ。

言いたいことは山ほどあるはずなのに、頭の中がこんがらがってうまく言葉に出せない。


「だから?結局何が言いたいんだよ」


感情に任せてまくし立てるわたしと対照的に、冷静な彼。

この温度差が悔しくて、悲しくて…ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






『ガシャン!』




わたしはフォトスタンドを床に叩きつけるように投げ捨てた。