宛先はーーー宮川智充。






わたしはあっ、と叫んだ。

左手の約束はとうに消えている。

智充君と映画を見に行くと約束した日は今日だっただろうか。

すっかり忘れてしまっていた。



こういう時、思い知らされる。

ブラックフードを被った彼、伊織君。

わたしの頭の中は彼のことでいっぱいなんだということを。

今日やっと彼と念願のデートができるんだ、とずっと浮かれていた。




「どうしよう…」


さすがにドタキャンは人としてどうかと思うし、なにせ智充君とは前にも一回約束を忘れてすっぽかしてしまったことがあるから断りづらい。



…仕方がない。


映画を見終わったら智充君にはうまく言って、午後から彼に会いにいこう。



わたしは彼にメールを送った。


《ちょっと用事があるから、午後からそっちに行くね》


しばらくして《了解》と彼からの返事。



わたしはスマートフォンを片手に顔が綻ぶ。

まるで夢みたい。

彼とデートというデートができるなんて。