菜々緒…。
菜々緒がわたしのことを考えてくれたことに感激する。
彼は黙って聞いているだけで返事という返事はしてくれなかったけれど、菜々緒の気持ちが嬉しかったからそれでもよかった。
ふと、彼と目が合った。
というより睨まれたといったほうが正しいかもしれない。
たぶん余計なこと言ってんじゃねえよとかそういうことだろう。
シュンとしていると彼は頬杖をついて、わたしをじっと見つめた。「明日…」
鼓動が高鳴る。
「明日の土曜日、どっか行くか」
想像もしていなかった展開に耳を疑う。
「え…」
「なに、嫌なの」
「い、嫌じゃないよ!…でも」
「でも?」
「…ほんとに?」
「俺は嘘は言わねえ」
「よっく言うよ」と菜々緒が笑って茶々を入れる。
「上崎、黙ってろよ」
「はーい、すみませーん」
「で、行くの行かないの?」
「…く」
「ん?」
「行く!喜んで行かせていただきます!」
くくっ、と彼が肩を揺らして笑う。
「鼻の穴でけえし」
わたし、赤面。
うわ。
彼がこんな風に笑ってくれるなんて初めてかも。
「よかったね。愛人から本妻に昇格かもよ」
とわたしの耳元で菜々緒がいった。


