「愛菜はこんなことで怒るような女じゃないから」

「へーえ」

「なんだよ」

「いややっぱり本妻は谷口さんなんだーと思って」

「そっちが本妻だ本家だって勝手に騒ぐからだろ」

「じゃあ聞くけどさ…」


菜々緒が身を乗り出して、いきなり核心を突いた質問をした。


「羽生君の本命ってぶっちゃけ誰?」





ぎょっとする。




少しの、間。


彼は箸を置いて、何かを考え込んでいた。

その視線の先には左手に光るピンキーリング。





わたしは耳を塞いでしまいたかった。

どうして菜々緒はそんなことを聞くのだろう。

聞かなくても、分かることなのに。



彼がおもむろに口を開く。






「…ノーコメント」







ほっ、としたような。
残念なような。

矛盾していると思っていても、彼の本音を聞きたかった自分が少しだけいた。




「これは戯言だと思って聞いて。余計なお世話かもしれないけど、本命はちゃんと一人に絞りなよ。じゃないとあんた、いつか刺されるよ。女なんてね、みんな仮面かぶってるんだから。仮面がはがれたが最後、自分を見失うよ」


「それに…」菜々緒がちらり、とわたしを一瞥した。


「大好きな親友、泣かせるようなことしないでよね」



その時、わたしは彼にその質問をした菜々緒の意図に気付いた。