「ここ、いい?」


答える間もなく、彼がわたしの前に腰掛ける。

菜々緒も驚いて、わたしと目を合わせた。

、、、、、
わたしと彼はいわば、放課後のカンケイだけで、日中はなんとなく会話を交わすこともしなかった。

というのも彼の隣には必ずきれいな女の子がいて、近寄りがたいっていうのも原因の一つだ。

だから公共の場で彼が冴えないわたしと一緒にいる光景はとても珍しくて、クラスメイトの視線を痛いぐらいに感じた。

中には「今度はあの女か」なんて声も聞こえたりして、わたしは向かいのテーブルに座っていた谷口さんがどんな顔をしているか気になって仕方がなかった。

わたしがそんな心配をしていることを知る由もなく、黙々と大盛り定食を食べ続ける彼。


「なに?」


わたしが凝視していると、彼がやっと気付いた。


「う、ううん。え、あ、いや、あの…その、おいしそうだね」


変に挙動不審なわたし。

そんなわたしを見かねてか、菜々緒が助け舟を出してくれた。


「羽生君、いいの?」

「なにが」

「本妻がこっちを見てるよ」

「ホンサイ?」


しばらくして言葉の意味を理解した彼はああ、と納得したように頷いた。