「また見てる」彼はうんざりしながら言った。
「ごめんなさい」わたしはシュンと肩を落とす。
「そんなに俺のことが好き?」
「うん」
「俺はあんたのこと好きじゃないよ?」
「分かってる」
「付き合えないしキスもできないしエッチもできない」
「知ってる」
「でも愛のないエッチならできる。今からしようか?」
「伊織君」
「…なに」
「今日、谷口さんに、だいすきだよって言ってたよね」
「愛菜に?俺、そんなこと言ったっけ」
「昨日は風間さんに言ってたよ」
「ふうん。覚えてねえな」
「そっか。覚えてないんだ」
「うん。覚えてない」
「ねえ伊織君」
「やべ。タバコもうねえや」
「愛がなくてもいいからキスして下さい」
「やだ」
「どうして?エッチはできるのに?」
「うんエッチならいいよ」
「わたしはキスがいい」
「やだ」
それからは彼の口から出るのは「やだ」のオンパレード。
「ねえ伊織君」
「やだ」
「伊織君てば」
「やだ」


