えっ、とわたしは彼を見上げる。
「…谷口さんに、頼まなかったの?」
「お前アホか。愛菜にパシリ頼むわけにいかねーだろ」
「あ…、そっか。そうだよね」
ちょっと落胆。
変に期待してしまった自分がいた。
待ってたと聞いて、わたしに会いたかったのかなっていうそんなありえない、
ーー期待。
「風邪引かすわ、気が利かないわ、使えねえ女」
「ごめんなさい…」
最近のわたし、謝ってばっかだ。
でも彼にだったら、全然悔しくなかったりする。
…こういうとこがダメなんだろうな、わたし。
「昼メシ」と、彼。
「えっ」
「お詫びとして昼メシ奢れ」
「うん、分かった」
「大盛り定食。俺、ずっと食べてねーんだよ。誰かさんが買ってこなかったせいで」
「ずっとって…。谷口さんは?昨日連絡票持ってこなかった?」
「来たよ。来たけどすぐに帰した」
「どうして?」
「あんたが来ると思ったから」
どきん、とした。
どうしよう。
また性懲りもなく、期待の芽がむくむくと顔を出してきた。


