宛先は知らないメールアドレス。
メール内容には
《しね》
その二文字が並んでいた。
「どうだった?羽生伊織から何だって?」
菜々緒に見えないように慌ててスマートフォンの画面を隠す。
「う、ううん。迷惑メールだった」
わたしは何事もなかったように笑顔を繕った。
「ちゃんと拒否っときなよー」
「うんそうだね、設定しとく。歌ってていいよ」
菜々緒が歌い出してから、わたしは恐る恐る画面を隠していた手を離した。
《しね》
どうやら見間違いじゃなかったみたい。
最近の迷惑メールはこういうのも送られてくるのかな。
それにしても気味が悪い。
わたしはすぐにそのメールを削除した。
ただの迷惑メールだと思い、その時はたいして気にも止めなかったけれど、徐々に嫌な予感が芽生えてきたのは次の日の朝のことだった。
着信音に起こされたわたしはまた期待が胸を躍らせる。
でも彼からじゃなくて。
《しね》
削除してしまったから同じ宛先かは分からないけれど、そのメールは昨日と同じ内容だった。


