夕日が沈みかけている。「伊織君」
「お姉ちゃ…」
わたしは口に出しかけたけれど、踏み止まった。
あれだけ寒い寒いと言っておきながら、いつの間か横たわってすやすやと眠っている彼。
冷たい風に吹かれて、彼の唇が青白く変色していた。
彼が他の女の子とキスをするところを見たのは今日で二回目。
谷口さんと、それから…
お姉ちゃん。
ー茜さん。すきです。
初めて嫉妬を覚えたあの日を、これからもずっと忘れられないと思う。
わたしは彼に寄り添うようにして、体を丸めた。
それから天使の寝顔にゆっくりと手を伸ばす。
神様。どうか許してください。
わたしはもう二度とあんな思いをしたくない。
、、、、、、、、、、、、、、、、
わたしの中にいる、みにくいわたしを捨ててしまいたい。
遠くでカラスの鳴き声がこだまする。
彼の唇に優しく触れた。
この時、わたしはまだ知らなかった。
まさかこのキスが、これから波乱を巻き起こすことになるなんて…ーーーーーーーーーー。