「ねえわたしにもコーヒー分けて」

「やだ」

「普通、わたしの分も買ってこない?」

「呼び出したのはそっちなのに、なんで買ってこなきゃなんねーんだよ。欲しいなら自分で買ってこい」

「…もういいよ」


わたしは諦めて、冷えきった顔をマフラーに埋めた。


「つかそれよこせよ、自分だけずりい」


えっやだ、と抵抗するもすぐにマフラーを取り上げられてしまう。


「マジ寒い。明日風邪引いたらあんたのせいだかんな」

「マフラー奪っておいてよく言うよ。だったら来なければよかったのに」

「んだそれ。だったら呼ぶなよ」

「…」


わたしは口を噤んだ。


彼を呼んだ本当の理由を言ったら、わたしとのカンケイは断ち切られるんだろうな。

彼は面倒臭いのが大嫌いだから。


そう思うとなかなか聞き出せずにいる。



「それデートの約束?」

「えっ」

「左手」


今も油性ペンでくっきりと残っている智充君の字。

すっかり忘れていたわたしは「デートじゃないけどね」と頷いた。


「そいつをここに呼べばよかったじゃん」

「…」


わたしの気持ちを知っているのに、どうしてそんなことを平気で言えるのだろう。

わたしは悲しくなった。




あのキスだってそうだ。

彼にとってキスはもっと意味のあるものだと思っていたのに。



お姉ちゃんが結婚するって聞いたから?


もう二度と振り向いてくれないって分かったから?