「どうだった?やっぱ違う?」

「ほっとけよ」苦笑する彼。

「あー俺も年上のオネーサマと寝てー!」

「うっさいよ!男子!」


委員長の日比野さんが立ち上がって男子を睨みつける。


「大丈夫?愛菜」


その一方で谷口さんを気にかけていた。


「うん、大丈夫」


谷口さんは笑顔で平静を装っていた。



彼の唇にピンクグロスのキスマーク。

それが何を意味をするのかなんて、きっと考えたくもないことだったと思う。


もちろん、わたしも。




でも、無情にも彼の口から聞いてしまうわけで。


「たかがキスぐらいで騒ぐなよ」


そういって手の甲で口を拭う彼に、わたしはショックを隠しきれなかった。



キス、…したんだ。








「伊織君」


谷口さんが彼を呼ぶ。「話したいことがあるの」

そこにいつもにこにこと笑っている谷口さんの姿はない。


「…分かった」と彼。

「いよいよ本家のお出ましだー!」

「ついに修羅場か?」

「るせー。黙れ」


彼は騒ぎ立てる男子をふりきるように、谷口さんの肩を抱き寄せ、そのまま教室を出ていった。

わたしはなんだか気になって、いてもたってもいられず、すぐさまふたりの後を追った。