さっきの女の人とどこか行ったのかな…。



数学教師の鳥居先生が彼がいないことにまた嘆く。

黒板に数式が並び始めると、後ろのほうで谷口さんがこそこそ話しているのが聞こえた。


「ねえさっきの女、伊織君になれなれしくなかった?」


どうやら、谷口さんも気になっていたみたい。


「3年のハセガワレミっていう人らしいよー。近藤が言ってた、あいつ顔広いから。向こうから直々に羽生君を紹介するよう申し出があって、そこから知り合ったみたい」

「近藤、余計なことするなって話だよね」


うんうん、とわたしも心の中で頷いてみたりする。


「あの人だけじゃなくて3年にも羽生君のこと狙ってる人いっぱいいるから、愛菜、気をつけなよ」


ホント、分かってはいたけど敵は多し。

彼を追う女の子は後を絶たない。




「伊織君が本気で好きになる人なんているのかな…」


しばらくして、谷口さんが呟くようにいった。


「何言ってんの。羽生君の本命は愛菜に決まってるじゃん」

「そうだよ。昨日だってデートしてたんでしょ」

「…ううん。昨日はドタキャンされた。急用ができたって」


どきり、とした。

谷口さんは昨日、伊織君がわたしと会っていたことをきっと知らない。