猫に恋する、わたし


「来週の土曜日、空いてるか聞きたくて」

「空いてるけど、どうしたの?」

「この前メールで見たい映画があるって話したろ。一緒に観に行かねーかなと思って。チケットも予約済み」

「…」


返事を渋っていると、智充君は「じゃ決まり」とわたしの左手をとって持っていたサインペンで何かを書き出す。

くすぐったい。


「ちょっと…」

「よっしゃ!じゃ待ってるな!」


始業のベルが鳴ると同時に、わたしの止める声も聞かずに智充君は教室を出ていってしまった。


まだ行くって言ってないのに。


左手を見ると、



『11/2 AM10:30 駅前集合!』



それから大きくニコちゃんマーク。



…強引。


一年の時にわたしが遊ぶ約束を忘れてしまったことがあって、それから智充君は二度とわたしが忘れないようにとこうして約束をとりつける。

油性ペンだからなかなか消えないんだよな、これ。

わたしは小さくため息をついて、一番後ろの席に目を移した。

彼の姿はなかった。