チャイムが鳴った。
「授業始まるよ。行けば」
彼はもう一度おおきなアクビをして、あたしに背中を向けて寝転ぶ。
しばらくすると、よほど眠たかったのか五分もしないうちにスースー、と寝息が聞こえた。
「…おやすみ、伊織君」
わたしはそれだけ言い残して、屋上を後にした。
「わたしってばかなのかなあ」
ぽつり、と呟くと、隣の席に座っていた友人の菜々緒がポッキーを咥えながらこっちを見た。
「また羽生君のこと?」
「うん」
「何か言われたの?」
「”俺とあんたってさ、別に付き合ってないよね”って言われた」
「ホントのことじゃん」
「違うの」
「何が違うの?」
「おととい、あげたの」
「あげたって何を」
「こう、わたしの乙女心を」
「は?」
菜々緒が咥えていたポッキーが折れた。
ポキッと音がするからポッキーって名前をつけたのかな、なんてそんなことを考えていたら、菜々緒が唇を震わせて勢いよく立ち上がった。
「あんたバカじゃないのっ!あのケダモノとヤッーーーー」
「しーっ!しーっ!声が大きい!」
わたしは慌てて菜々緒の口を塞ぐ。
大きな声に驚いたクラスメイトの視線がわたしと菜々緒に一斉に集中する。
「ケダモノ何者ナマケモノ〜、なんて冗談言ってみたりして。ねえ菜々緒」
つい意味不明なことを口走ってしまったものの、わたしは何事もなかったかのように笑顔を装って、急いで菜々緒を連れて教室を出た。


