「伊織君。相田先生が放課後、職員室に来いって言ってたよ」
散らばった古い机や椅子。
ほとんど粗大ゴミ置き場と化している屋上は彼のお気に入りの場所。
太陽の下、一番景色を見渡せるペントハウスの上で、ブラックフードを被って日向ぼっこをしている後ろ姿はまるで黒猫みたい。
「あっそ」
だから何、と言わんばかりに、彼はわたしを一瞥する。
隣に腰を下ろして一緒に景色を眺めていると、彼はうんと背伸びをして、喉の奥まで見えるぐらいおおきくアクビをした。
「昨日、寝てないの?」
「まあまあ」
何がまあまあ、なんだろう。
まあまあ寝たのか、まあまあ寝ていないのか。
「女の子と一緒にいたの?」
「別に」
「昨日電話かけたんだけど、伝言聞いてくれた?」
「聞いてない。てかスマホ家に忘れたわ。何?何か用でもあったん」
「ううん。別に」
「なんだそれ」
「ちょっと声が聞きたかっただけ」
押し黙る彼。
やっと口を開いたかと思えば、返ってきたのは冷たい言葉だった。
「俺とあんたってさ、別に付き合ってないよね。そんなことで電話かけられても迷惑」


