「千絵?いい子にするのよ?パパと紫乃さんに迷惑かけないようにね?」


「ママ…どこかにお出かけするの?」



千絵にも分かったのだろうか?
あたしがいなくなるということに。

分かるのも無理はないだろう。
荷物を持っているのだから。



「どこも行かないわよ。また帰ってくるわ。」



「本当に?いつ帰ってくるの?」



「すぐ帰ってくる。約束しよ?ママは守れない約束をしないわ」



あたしは千絵に小指を差し出す。
千絵は拗ねたような顔をして、ゆっくりとあたしの小指に自分の小指を絡ませた。


結ばれた、親子の約束。

ねぇ、光。
貴方があたしと約束した約束も、こんなふうに繋がっているのかな?



あたしは立ち上がり、ドアを開ける。



お別れの時間。
寂しいのは当たり前だけど、でもまた会える気がするの。
違うわ…
絶対会える。

あたしたちは繋がっているから。



「千絵、ママね?
千絵のこと世界で一番愛しているよ…」








泣かないで。
ずっと笑顔でいて。


あたしも泣かないから。



最後に見た千絵は、泣いてなんかいなかった。
あたしを真っ直ぐ見つめて、笑っていた気がする。



あたしは千絵との約束を破らない。
なにがあっても千絵を迎えにいく。


それまで待っていてくれますか?




何年かかってもいい。
千絵があたしを忘れてしまってもいい。


あたしは守り抜く。



守りたい約束が出来たから。