苦しいのに言えない自分が情けなく感じる。
だがもう後には引けない。
答えは出てしまったから。



これ以上この場所にいたらまた迷ってしまいそうになる。
自分がおかしくなる。
そう思った。



あたしは残りの力を出しきり、その場に立ち上がる。
唇を少し噛んで、持ってきたカバンを持ち上げた。


頭がふらふらする。
目眩だろうか?

いや、きっと涙の流しすぎだろう。



「明菜…さん?」



「あたし、もう行かなくちゃ…。あの子に泣き顔は見せたくない」



母親である最後の意地。千絵に泣き顔を見せたくない。
あの子とは笑顔で別れたいの。



あたしは玄関を目指して歩いていく。


あたしに残された力はどれくらい?

笑顔になれる力だけは残しておきたい。



「明菜さん!!待って!」



後ろから紫乃さんの引き止める声が聞こえてくる。
その声に反応せずに、玄関へと急ぐあたし。


自分のピンヒールを探して、履こうとしたとき、あの子の声が聞こえた。



「ママ?どこにいくの?」



あたしのワンピースの裾が引っ張られる。
その力は弱くて、けどどこか強くて、その子の心情がよく伝わってくる。

寂しいの?


あたしもよ。



あたしは涙を手で拭いて、後ろを振り返る。


そこには紫乃さんと、
驚いた表情を見せる光と、眉毛を下げて、あたしをじっと見つめる千絵がいた。



「あき…な?どうした?」



光の声で我に返るあたし。
あたしはしゃがんで、千絵の頭を撫でた。