最低な母親だと言ってくれても構わない。
でもあたしの気持ちは変わらないから。
あたしはカバンの中からあるものを取り出す。
それは一枚のメモ用紙。
「もし千絵が泣いたとき、これを作ってあげてください。きっと喜ぶと思います…」
紫乃さんはあたしからメモ用紙を受け取り、その中身を読む。
読み終わった紫乃さんは、あたしを真っ直ぐに見つめて、深く頷いた。
「わかりました。
ありがとうございます」
千絵が泣いたらこれをあの子に作ってあげてください。
あたしにはそれしか残せれません。
「あと、千絵の洋服も少し持ってきました。あの子が気に入っている洋服です。それと大好きな人形も…」
テーブルに並べていく、千絵のお気に入りのものたち。
これを見たあたしは、また泣き出してしまいそうになった。
思い出が蘇ってくる。
テーブルの上に悲しそうな表情を浮かべている、ウサギの人形。
これは去年の誕生日に買ってあげたもの。
千絵があまりにも大事にするものだから、顔が少しだけ汚れている。
「千絵ちゃんは…幸せですね。私も明菜さんのようなお母さんになりたいです」
あたしは幸せに出来る母親ではない。
自分でも分かっている。
気付いたころには、紅茶は冷めきっていた。
湯気は消え、残るのは鮮やかな紅茶の色と、無力なあたしだけ。


