別れの言葉なんかいらない。
言ってしまうと余計辛いから。


だから自然に別れよう。


「明菜…」



光は立ち上がり、あたしの隣に座った。
あたしは手で顔を隠し、涙を見せないようにする。


走馬灯のように蘇る、千絵との思い出。

楽しかった日々は昨日まで。


千絵が立てるようになったのはいつだったかな?
初めて喋った言葉は、「ママ」だったね。
それを聞いたあたしは、嬉しくて、抱きしめた。

「ツナカレー大好き」
あたしが作るツナカレーが大好きだった千絵。
口の周りにカレーを付けて笑う笑顔が大好きだった。

日に日に成長していく千絵があたしの唯一の幸せだった。


千絵はあたしの宝物。
一生の宝物。


ずっと一緒にいたかった…


ごめん…
ごめんね、千絵…。



「あたしは…あたしは…!!」




あたしは千絵が大好き。

愛しい、あたしの子供。



あたしの体を包み込む光。
この温もりも忘れたくない。


永遠に忘れたくない。



「…ママ…」



そんな時、後ろから声が聞こえてきた。
その声は、紛れもなく千絵の声。


近寄る足音。
そして視界に千絵の顔が映った。
涙で歪んで見えるけど、間違いなく千絵だ。



「…千絵…」



「ママ、どこか痛いの?」


あたしの涙を見て、千絵は眉毛を下げて、今にも泣き出しそうな表情をする。




「ママ…泣かないで…」



こう言って小さな体であたしを抱きしめる千絵。


その瞬間、瞳からは大粒の涙が溢れてだした。