いつまで逃げたって答えは同じ気がした。
逃げたら負け。
あたしは真っ直ぐ前を向いて、現実へ向かう。
「紫乃さんは…許したんですか?」
どうして敬語を使ってしまったのだろう。
普段、光に敬語なんか使わないのに。
言葉にすら表れている。あたしが動揺しているということ。
震えだす体。
小刻みに手が震えている。
なぜ?
どうして?
紫乃さんはいいの?
千絵を引き取っても。
だって千絵は、あたしの子供よ?
普通なら考えられないはず。
他人の子供を育てるなんて。
ましてや、千絵はあたしと光の子供。
秘密の関係に出来た子供なのに…、なぜ?
「…紫乃も納得してくれたよ。きっと可愛がってくれるはずだ。オレは明菜が心配なんだよ」
「あたしが?」
もうワケ分からない。
光はなぜ引き取ろうと決心したの?
「明菜は体が弱いだろ?もっと自分のことを心配して欲しい。もし、明菜が無理に体を動かして倒れたら、悲しむのは千絵じゃないか?」
あたしの体?
確かに、千絵を産んで、体は前より弱くなった。疲れは吸収される一方で、発散する時間などなかったから。
それを光は心配してくれているの?


