きっと醜い顔をしているに違いない。
だから見ることが出来なかった。
貴方が言うことは、あのことでしょ?
ワンピースを握りしめて、涙を我慢するあたし。
泣いちゃいけない。
泣いたら母親失格よ。
「…もしかして…」
「きっと明菜が思っていることと同じだよ」
光の顔を見ることができない。
久しぶりに会う愛しい人の姿を、真正面から見る勇気はなかった。
現実逃避をしているのかもしれないけど、これは現実なのだ。
嘘の世界でもなければ、偽りの世界でもない。
その時、部屋中に可愛らしい陽気な音楽が流れ始めた。
この音楽はきっと時計の音楽だろう。
針が12の場所に辿り着いたようだ。
その陽気な音楽でさえ、あたしを嘲笑っているように思えた。
「率直に言うな。
千絵を俺に引き取らせてくれないか?」
その言葉を聞いた瞬間、体に力が入り、ワンピースを更にぎゅっと握る。破れるくらい、強く。
やっぱり、そうだったか…。
気付いていた。
昨日の電話から。
真剣な口調だったもの。今と同じくらいに。
千絵があたしからいなくなる。
もう現実を見なくちゃいけない。


