廊下を歩いていくと、そこには広いリビングがあった。
白を基調にした家具がお洒落さを感じさせる。
綺麗な花瓶に飾られている薔薇の花が、紫乃さんから光への愛のメッセージに見えた。
「明菜、千絵、座って」
大きなソファーに座るあたしと千絵。
千絵は部屋をぐるりと眺めながら、あたしの服をぎゅっと握った。
「大したものは出せれないけど、どうぞ?千絵ちゃんはオレンジジュースでいいかな?」
こう言って、紫乃さんはアールグレイとオレンジジュース、そしていちごのタルトをテーブルの上に置いた。
ケーキに反応をする千絵。
「千絵、ケーキ好き!!」
その言葉を聞いて、少しだけ悲しくなるあたし。
あたしが作るカレーよりケーキの方が好きなの?
ふと紫乃さんの薬指を見ると、そこには電気の光で反射し、キラキラと輝いている結婚指輪があった。
次に自分の薬指を見るが当然のように結婚指輪などない。
その現実にひどく惨めさを感じた。
「紫乃、千絵をつれて向こうの部屋で遊んできてくれないか?明菜と大事な話があるんだ」
もう言葉にならない。
悔しいけど、あたしと身分が違いすぎる。
千絵が好きだと言ったケーキも、誕生日にしか買ってあげることができない。
裕福な生活なんかできないのが現状。
あたしの手ではもう無理なのかな…。
「明菜、大事な話がある。昨日紫乃とも話をしたんだけど…」
分かってる。
その準備はしてきたわ。
紅茶に映る自分の姿が、どうしても見ることができなかった。


