ずっと触れたかった。
でも我慢していたの。
その瞬間、あたしの瞳からは大粒の涙が零れた。
あたしたちの光景を見て、不思議そうに見つめる千絵。
光は千絵の視線に気がつき、あたしを体から離し、千絵と同じ目線のところまでしゃがんだ。
「はじめまして、千絵。オレがパパだよ…」
光が優しく微笑みかけると、千絵は恥ずかしそうに照れ笑いをした。
連れてきて良かった。
あたしは間違っていないわよね?
「今日は来て欲しいとこがあってね。あっちに車が用意してあるから来てくれるか?」
光は千絵を抱きかかえ、駅の出口を指差す。
あたしは小さく笑い頷いた。
光と千絵の姿を、ちゃんと目に焼き付けておきたい。
あたしは先に行く二人を見てそう思った。
高級車に乗せられること約一時間。
その間、あたしは光との空白の時間を埋めるかのように、ずっと話していた。
光は楽しそうにあたしの話を聞いてくれる。
それが無性に嬉しくて、また涙が出そうになった。
光は出産のとき、立ち会えなかったことを非常に残念に思ってくれていた。
それだけで十分よ。
「千絵は食べ物で一番なにが好きなの?」
光がこう千絵に質問をする。
早く父親になりたいという光の意思なのだろうか。
「千絵はママが作るツナカレーが一番好きなの!」
「そうなんだ!オレも食べてみたいな!」
ねぇ、光。
あたしは豪華な食事なんか作れないけれど、
立派な母親だと認めてくれるかな?


