初めての東京は、慣れないことばかりだった。
まずは人の多さ。
そして歩く速さ。
フィリピンと比較してみる。
全然違う。ただそれだけを思った。
「ママ、今日千絵とお揃いの服だね!」
千絵はあたしの手をぎゅっと握り、満面の笑みを浮かべる。
「そうだね。お揃いの花柄のワンピースだね。千絵、よく似合っているよ」
千絵とあたしが身を包むのは、お揃いの花柄のワンピース。
なぜこの花柄を選んだ理由は、初心に戻りたかったから。
千絵の手を握りしめ、駅の改札口で光を待つ。
ここに来てくれ、と朝メールが入っていたからだ。
光と会うのはいつぶり?別れたときからかな?
そう時の流れを数えると、自分も歳を取ったなと思わせた。
「ママ、本当にパパくるの?」
「来るわよ、いい子にしてね。」
過ぎていく時間の長さを、人の流れで感じていた時、後ろから肩を優しく叩かれた。
この感触は、貴方。
忘れもしない。
触れられた瞬間、体中に熱を帯びていく。
後ろを振り返るのが怖かった。
だって、泣き出してしまいそうだから。
「明菜…」
久しぶりに聞く声。
なにも変わっていない。
「…ママ…」
あたしはゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、サングラスをして、黒いスーツに身を包んだ、光がいた。
「やっと逢えた…。愛しい人、愛しい我が子…」
「逢いたかったわ…光。」
全身の力が抜け、光に倒れ込むように、光の体を抱きしめた。
光もあたしを抱きしめてくれる。
この温かさも変わらない。
あの頃のまま。


