その声は光でしょう?
ずっと聞きたかった声。
ずっと我慢していたの。
愛しい貴方の声。
それを聞いた瞬間、また涙が溢れた。
《明菜?元気だった?
千絵も元気か?》
向こう側なんか見えるはずもないのに、あたしは首を縦に振っていた。
光ならなにかを感じとってくれるでしょう?
《今日仕事で海に行ったんだ。そしたら無償に明菜に逢いたくなった。君を抱きしめたいよ…》
抱きしめてよ…
あたしならここにいるから。
抱きしめて、優しく貴方の温もりで抱いて…。
「ママ??」
すると千絵が悲しそうな表情を浮かべてこちらに歩いてくる。
千絵の洋服に染み込んだ汚れが、あたしに切なさを誘った。
《その声は…千絵…?》
光は驚いた声を漏らす。それもそうだろう。
千絵の声を聞くのはこれが初めてなのだから。
何度も声が聞きたいと言ったのだが父が許さなかったため、なかなか聞けずにいたのだ。
そして千絵もだ。
光の声を聞くのは初めて。
父親の存在に触れるのも初めてだ。
《千絵?パパだよ…》
《パパ…??》
初めて父娘が繋がった瞬間だった。
それを見たあたしは、
光に聞こえないように静かに涙をごぼしていた。
神様、お願いがあります。
どうか、このこの子を、あの人のところへ連れて行ってください…。
《明菜、突然なんだけど…大事な話があるんだ。千絵を連れて東京に来てくれ…》
それはあまりにも突然すぎた。
千絵…
あたしはあなたのことを愛しているよ。
心の底から愛しているわ。
こんな母親でごめんね…


