千絵が生まれて、あたしたち家族の生活は厳しくなった。
あたしが会社を辞めたせいだろう。
収入がぐんと減ってしまったのだ。
父は昨年定年を迎え、仕事を辞めた。
母はパートをして稼いでいるが、それだけでは裕福に生活はできない。
あたしがもっと頑張らなくちゃ…と意気込んでも、体が動いてくれない。
体の弱さが仇となる。
「ママ、どうしたの?」
千絵が小さな手であたしの頬に軽く触れた。
その手の感触が柔らかくて、次第に瞳から涙が溢れていく。
「悲しいの?ママ?」
ごめんね、千絵。
「なんでもないよ。タマネギが目に滲みたの」
娘を幸せにしてあげたい。
これがあたしの出来る精一杯の願いでした。
もう道が分からなかった。
どうしたらこの子を幸せにできるのか、そればかり考えていて…
自分の幸せなんか要らないわ。
この子だけ幸せになってくれればいいのよ…。
ちょうどその時、テーブルに置いてあった携帯電話が鳴り出した。
「ちょっと待ってね」
千絵を下ろし、火を止める。
涙をティッシュで拭き取り、携帯を見る。
そこには、懐かしい名前が映し出されていた。
その文字を見た瞬間、忘れかけていた感情が芽生えだす。
「もしもし!?」
《あ、明菜?驚いたよ。いきなり出るから》


