涙が沢山零れた。
しょっぱくて温かい涙が次から次へと頬を伝っていく。
光はあたしの涙に唇を当てて、微笑んでくれた。
産んでもいいの?
迷惑じゃない?
「光…あたし…」
「オレは明菜とお腹にいる子供を絶対に幸せにする。約束だよ…」
こう言って、太陽の下で口づけをした。
神様に誓うように。
なにがあっても、あたしはこの子を育てるわ。
約束よ?光。
あたしとこの子を幸せにしてね…。
けれど、その二日後、光はあたしの隣から離れて行った。
「明菜、君に言わなくちゃいけないことがあるんだ…」
この日、恐れていたことが起こった。
それは光が東京に戻る日。
理由は選挙が行われるからだ。
その選挙に光は立候補をするらしい。
このことを聞いたあたしは脱け殻となった。
涙さえ止まってしまった。
ずっと一緒だと思っていた。
幸せが増えたのに…ここに落とし穴があったなんて…
穏やかだった風が、強くなった。
その風はどこか冷たくて、心までも冷やしていく。
「嘘…でしょう?光は冗談が…上手なんだから…」
「ごめん…明菜…」
もう一度光はあたしを強く抱いた。
いつか来ると思っていた。
こんな日が。
けどなぜ今なの…?
ひどいわ…ひどいわよ…
「明菜、オレはいつも明菜を想うよ。だから、オレがいなくなっても、唄って欲しい。ここで、オレに向かって、ラブソングを唄い続けて…」
光…
あたしは唄い続けるよ。貴方のために。
どうか、あたしを思い出なんかにしないでください。
「あたしは寂しくないわ…この子がいるもの…光…あたしのこと忘れないで…」


