…そして、今日もあたしは光と一緒にこの海に来ている。
初めて出逢った場所。
あの時と同じ場所に座るあたしたち。
持ち物はギターのみ。
「明菜、聴かせてよ。
初めて出逢った時に弾いてた曲」
「いいけど…歌詞は覚えていないよ…」
こう小さい声で言ってギターを構えるあたし。
その言葉に、光はなにかを感じとる。
「デタラメでいいから…。けどその前に言うことあるんじゃない?」
「え…」
さすが光。
三年間も一緒にいるからなのか、あたしの変化に気付いたようだ。
そう。
あたしはここに来る前、ある場所に一人で行った。
視線を下に移し、お腹に手をあてる。
あたしが行った場所。
それは産婦人科。
体の異変に気付いたあたしは、なぜかこの科に足を運んでいた。
光と毎日のように愛し合っていたら、そういう可能性はなくはないから。
検査を受け、医師にこう告げられた。
とても満面の笑みで…。
「おめでとうございます。六週目に入りました。」
しばらく、時が止まった。
その真実に直面して、言葉をどこかに置いてきてしまったようだ。
どうしたら…
どうしたらいいの?
お腹の中にある、新しい命。
産むべきなの?
でも産んだら、この子は幸せになれるの?
光との子供。
一度は願った。
光との子供が欲しいと。
だけど光は望んでいる?
あたしとの子供を…。
でも…あたしは…。
なにかに決心したかのように、あたしは医師を真っ直ぐ見つめ、言葉を並べた。
「産みます!」


