彼の瞳に吸い込まれていく。
もしかしたら、この時にもうあたしの心は奪われていたのかもしれない。
「歌手だなんて…無理な話よ…。あたしになんかなれないわ…」
初めて言われた。
歌声がいいと、歌詞がいいと。
今までの観客は海だけだったからかな?
初めて人に聞かれて、恥ずかしさが溢れてくる。
あたしはギターを自分の体から離して、ケースの中にしまった。
その光景を不思議そうに見つめる彼。
「もう歌わないの?オレ、もっと聞きたいのに」
冗談はよしてよ。
からかっているの?
ちらっと彼を見ると、どうやら冗談ではなさそうだ。
はぁ…とため息を漏らすあたし。
「今日はもう終わり。気分が乗らないの。天気が悪いからかな…」
海を見ると、さっきより波が荒々しくなっている気がする。
彼が現れてから。
「そっか…じゃあお話しようよ。オレ、源光って言うんだ。」
笑顔で自己紹介する彼。この時、絡まっていた糸が真っ直ぐ一本になった…。
どこかで見たことあった。
けど思い出せなくて…。
でも今ようやく分かった。
貴方は、源光…。
「源光って源桐生の息子の…?」
「そうだよ、君の名前は?」
こう光があたしに名前を尋ねたとき、光は左手の薬指にはめてあった指輪を右手でそっと隠した…。
あたしは、それを見逃さなかったの…。


