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「東条君って前の学校でもモテてたでしょー?」
「え?まさか。」
「ふふ、謙遜しなくてもいーのに。」
「う……唐揚げ……」
はい、今の状況。
机をくっつけて班を作ったのだけど、私の隣には玲、向かいには梓、斜めには噂の転校生君。
隣では玲が寝言言うほどぐっすりすやすやだし、目の前ではピンクの空気咲き乱れてるこの案件、どうしてやろうか。
玲は取り敢えず、遅刻するほど寝てきたのにどうしてまだ眠いんだ!って感じだし、梓は東条君を女豹の目をしてがっちり狙うのやめましょうよ。
梓に、玲に、東条君。
それはそれはキラキラした御三方がいらっしゃるからね、この班、注目の的と化した。
うう、肩身が狭いよ……。
日本史は苦手じゃない。
というのも、カミウチとしての歴史を語る上で日本の歴史は必要不可欠。カミウチは日本の誕生と共に国家の裏側で“機密”として存在してきたから。
カミウチとしての勉強の段階で、教科書レベルよりかなり深い日本史を勉強してきている。
だからレポート制作は苦ではないんだけど……一人で書くのもつまらないし、一人で書くとうっかり“表沙汰”になっていない歴史の真実とか書いちゃいそうなんだよね。
周りを見渡して、うん、彼しかいない。
……玲を手伝わせよう。
『玲、起きて。』
「ん……。」
『れーいー。』
ゆさゆさと身体を揺する。
そうすれば突っ伏していた体勢を止めて、彼は背伸びをして。
「……何。」
不機嫌な玲が髪の毛の隙間から私を見てくる。
『手伝ってよ。』
「梓でもいいだろ。」
『玲でもいいじゃん。』
「何……永遠は俺がいいわけ……?」
『うん、玲がいい。』
イケメンと話している時の梓は梓じゃない。梓様だ。
ここで梓、もしくはイケメン東条君を手伝わせたらどうなる?
梓が不機嫌だととっても厄介なのです。
もれなくアイス奢る刑となるのです。
「…………貸して、それ。」
そうして玲はレポートを手伝ってくれた。
「あ……ごめんね二人共、手伝わなくて……」
途中で爽やか君な東条君が私達に気がついたようだ。
『玲が手伝ってくれるから大丈夫だよ。』
秒でそう返した。因みにこの訳は、梓が怖いからそのまま話してて!だ。
「ううん、そういう訳にはいかないよ。僕も班の一員なんだし、カミウチさん、手伝わせてよ。」
………。
今一瞬焦った。
カミウチなんて知ってるのは玲と梓しかいないから。
玲も梓も驚いたらしい。
玲はレポートから顔を上げ、梓の顔も一瞬固まった。
でも、これは彼の言い間違え。
だって知るはずがないでしょう。“普通の転校生”が。
気持ちを落ち着かせて、笑う。
『東条君、これね、ジンナイって読むの。今更だけど私、神内永遠子です。』
「うん、それは君の名前で、でも本当はカミウチさん……でしょ?」
挨拶のときのような爽やかスマイルでサラッと言い放つそれに、サッと血の気が引くのが分かった。

