又バレンタインデーがやって来る。

美紀が誰を選ぶのか?
高校では、この話題で持ちきりだった。

既に全員が、美紀は本当は養女だったことを知っていたからだ。




 母直伝のトリュフチョコの材料を確認しながら、美紀は沙耶と過ごした日々を思い出していた。

正樹が生死の境をさまよっていた時、親身になって世話をやいてくれた沙耶。

母が本当は鶏嫌いだったことを教えてくれた沙耶。

その時……
気付いたことがある。

そうあの言葉を聞いて、自分も鶏肉が苦手だったと解ったのだ。

何かがおかしい。
何かが違う。
でもそれが何なのかが解らない。

だから美紀は悩み苦しんだのだ。




 自分の素直な気持ちを聞いてもらいたいと、美紀は沙耶を訪ねる決心をした。

でもいざ沙耶を前にしても、言うか言わざるべきかでその胸を痛めていたのだった。


「私は小さいから、パパを愛していました」

遂に出た言葉に思わずホッとした。
意を決した言葉に思わず涙した。

それだけ美紀は沙耶に遠慮していたのだった。


(やっと言えた)
美紀は安堵の胸を撫で下ろす。


「分かっていたわ」
そう答える沙耶。

それが余りにも意外で、美紀は沙耶を見つめた。




 「正直な話、何故こんなにパパのことが好きなのか分からなかった」
美紀はそう言いながら、結城智恵と真吾の写真を沙耶の前に置いた。


「この二人が美紀ちゃんのご両親?」
沙耶の質問に頷いた美紀。


「母の誘拐事件とか、諸々を母の育った施設を訪ね報告したんです。そしたら母の日記を渡されました」


美紀はバックの中から大学ノートを取り出した。


「見て泣きました。母はパパを好きだったんです。初恋だったんです。母も」

美紀は日記を胸に抱いて、泣いていた。


「言えなかったんです。孤児だったから。だから産まれた場所はコインロッカー。そう言って。きっと自分を戒めたんだと思います」

声を詰まらせた美紀。
優しく肩に手を置く沙耶。




 「私解ったんです! 私の中に母が生きていると。憑依していると」
突然、余りにも唐突に美紀が言い出す。


「憑依!?」

沙耶は驚いて、思わず手を引っ込めた。


「それ以外考えられない。きっと産まれたばかりの私のことが心配で」


「解るわ」
沙耶は頷きながら優しく美紀の体をバグした。

憑依だの何だのと怖がっている場合ではなかった。
沙耶は美紀を本当は抱き締めてやりたかったのだ。