毎年恒例だった珠希のお墓参りは、大阪に来る前に行って来た。

そんなことで済ませれないことくらい解っている。
それでも、息子達の試合が大事だと思ったのだ。


無料で使用出来る、筋肉増強マシンの置いてある体育館近くのお寺に珠希のお墓はある。

正樹は子供達と歩いて其処に行った。


お墓の前には既に沙耶がいた。

沙耶が、家族の留守の間に珠希のお墓を守りたい言い出したからこの合同お墓参りが実現したのだった。


(珠希。沙耶さんと二人で応援してくれよ。でも、出来ることならお前を一緒に連れて行きたい……)

正樹はそっと提灯を取り出した。

お盆のお墓には魂は居ないと言う。
提灯と迎え火によって家に戻るからだ。
だから正樹は敢えて提灯を用意したのだった。




 (せっかくああ言ってくれてる沙耶さんには悪いけど、良かったら一緒に行かないか? お前だって見たいだろう、息子達の晴れ姿を)

正樹はそう思いながらろうそくに火を灯し、お盆用の丸い提灯にそれを移した。


「まだ早すぎるけど形だけでも」
言い訳だと解ってる。
それでも、そうせずにいられなかった。
珠希だけを此処に残すことなど出来なかったのだ。
沙耶には悪いけど……


(提灯は持って行くよ。でもは火は心に灯すからな。だから一緒においで)

そう念じながら、沙耶を見た。
後ろめたさからか、正樹には沙耶が悲しそうに映った。




 「解っているわお義兄さんの気持ち。本当、お姉さんも一緒に行きたいに決まっている」

沙耶には、どんなに姉が悔しいかが解っていた。

自分だって一緒に行かせたいにだ。

だから此処に来て、一緒にワンセグで応援しようと思ったのだ。


(お姉さん。充電出来る充電器用意したからね。楽しみに待っていてね)
沙耶はそう言いながら、充電さえしておけば何処でも携帯に充電出来る充電器を触っていた。


その約束通り、沙耶は松宮高校の中継がある度に此処でガラケーを見た。


そのお墓の中に珠希の魂が居ると信じて……


「お姉さん、見辛くてごめんなさいね」
そう謝りながら……
見えないワンセグに耳を傾けた。

でも本当は、中継がある日だけではなかった。
珠希の魂を癒すために毎日此処に来ていたのだった。
美紀と一緒に甲子園に行ったことなど知らずに。