其処へコーチが遅れてやって来る。


「遅いよコーチ。昨日から朝練早くなったんだから」
大が得意そうに言う。


「何ー!?」

部員のブーイングを受けて大は縮こまった。


「昨日遅れて来たヤツが……」
秀樹の一言でみんな大笑いをした。

秀樹の脳裏に、一瞬美紀が浮かんだ。


(あちゃ。大のこと言えねー、俺も下手したら仲間入りだったかな?)

秀樹は頭を掻いた。
その様子を見て大が首を捻った。


大は野球部のムードメーカーとしての素質は充実にあった。

秀樹は何とかチームを纏めるために一役買って欲しいと本当は思っていたのだった。


朝練の方向性が決まった。

柔軟体操と走り込み。
まずは基本となる一人一人の体力作り。

甲子園に向かって零からの出発。

本当は投げ込みたい秀樹。
自分を抑えチームを一つに纏める。
そのために頑張ろう。
秀樹が又少し大人になった瞬間だった。




 直樹はキャプテンとて張り切っていた。
美紀にカッコイイところを見せたかった。
夕べのお風呂の中で、兄弟としてではない感情に目覚めて戸惑った。

そしてそれは、美紀が小さい頃から好きだった。
と言う気持ちに辿り着く。

直樹はその時、大のことなどすっかり忘れていた。


野球部は直樹が新入団の頃には余り纏まっていなかった。
上級生はてんでんに下級生をしごいていた。
でも太刀打ち出来るはずがない。
それでも直樹は屈せずに、それをバネにしてチームワークを勝ち取ろうとしたのだった。

時には炎天下での草むしりも命じられる。
その機会に、グランド整備をやってのける。
ローラーでの地盤固めやトンボでのならしなどを。

それは少年野球団で培ったスポーツ精神だった。


『一礼に始まり、一礼に終わる』

そう教えてくれた監督。
それはグランドに対する礼儀だった。


直樹は頑張り抜いた。
だから、野球部の部長になれたのだった。


生徒会長でもある直樹。
本当はキャプテンなんて無理だと思っていた。
でも全てが秀樹の一言で決まる。


『俺は野球に集中したい。だからキャプテンは任せた』
だった。