早速ホームベースに向かってカーブを投げてみる。
でも……
親指を意識し過ぎて、ベースの手前でバウンドした。


(力不足か……いや違う。基本を忘れていたんだ。そうかだからキャッチボールなのか?)


秀樹はやっと、コーチの言った『基本はキャッチボールと遠投』の意味を理解した。

直樹に向かって、ただ無心に投げていた子供の頃を思い出しながら。


そして自分の心に決着を付け、やっと覚えたカーブを封印することを決めた。


『あのコーチに付いていけば、甲子園だって夢じゃないよ』
昨日直樹が言ったその言葉を信じてみようと思った。

それは秀樹が少しだけ大人になった瞬間だった。




 本当は解っていたことだった。
でも忘れていたのだ。


(あー、何遣っていたんだろ……)

秀樹はその時、自分を過大評価していたことにも気付いて苦笑いていた。


もう一度マウンドに立って直樹を見つめた。

ありがとうと言いたくて。


「基本はキャッチボールと遠投か」

秀樹はその意味を模索し初めていた。
そのためにもう一度目を閉じた。
無心になりたくて。


「直樹わりー。もう少し付き合ってくれ」
秀樹はそう言うと、子供の頃二人で遊んでいたキャッチボールを思い出していた。


(最初はグラブなんて無かったな。でもあれはあれで楽しかった)

グラブを外し、お手玉のようにボールを上に投げては取る秀樹を直樹は首を傾げながら見ていた。


(もしかしてキャッチボールか?)
直樹はその答えに満足するかのように、身構えた。

何時ボールが飛んで来てもいいようにと思って。




 『体に負担のかからない投げ方は、力のロスをなくし、無駄のないフォームを作る事』

以前カーブを教えてくれた前任コーチが言っていた。


(果たして今、自分に出来ているのか?)

秀樹はもう一度その意味を考えてみようと思った。


(力のロスをなくす? いや、出来てない。俺の場合無駄に力んでる。無駄のないフォームを作る? これも駄目だ)

直樹にタイムをかけて一旦マウンドを降りた秀樹。

呼吸を整えてから仕切り直しに又入った。