カバンの中の携帯が鳴っているのに気付いたのは、もう店まで5メートルの距離だった。

駐車場に車を停め、ドアを閉め、キーをロックする。


「はい、はーい。」


「あ、麻友理さん。

どこ、ほっつき歩いてるんですか!!

活け込みが終わったら、すぐに帰ってきて下さいよ。」


「もう、うるさいな。すぐ着くってば。」


「どうせ進藤さんと、寝てたんでしょう。」


ったく―――。


ダイキ君の小言はまだ続く。


「こっちは午後からバタバタして忙しかったんですからね。」


道路を渡った向こう。

子機を片手に、店の中を動き回っているダイキ君が私からは確認できる。


「もう、店の前にいるってば。」


「ええ――!?」


横断歩道の向こう。

私の姿を確認すると、電話はブチっと途切れた。


「あっ―――!!」


切れちゃった。

これは相当、怒ってるかも。

私だって早く戻りたかったのに、あいつがまた始めちゃったんだもん。


不可抗力だ。