「さ、行きますか。」


「…っ、行きますかって、どこに!!」


真っ赤になって怒る私に、背の高い翔平君が覗き込む。


「スタッフの顔なんて、いちいち覚えてませんって。」


翔平君はかけていた黒ブチのメガネを外すと、私にかけさせた。

さっきまで首から提げていたIDカードを取り出し、私の首にぶら下げる。


「ほら、絶対、誰だかわかんないし。」


「あ、これ、伊達じゃない??」


「そうですよ。

今、メガネ男子が人気なんですよ?

ダイキ、意外にメガネ萌え、なんすよね。」


「…ったく、もう。

翔平君と話してると、気が抜けちゃう。」


「ほら、行きましょう。

麻友理さんの愛しい男、ちゃんと見とかなきゃ。」


「でっ、でも、絶対ばれるって。」


「何、言ってんすか。

こんなとこに、こんな恰好、スタッフにしか見目ませんって。」


「う…。」


確かに白いシャツに黒いパンツ。

首からIDカードなんて提げてたら、ただのスタッフにしか見えないよね。

でも、近付かなきゃ、でしょう。


そんな私の気持ちを察してか、

「いいところ、ありますよ。」

翔平君は嬉しそうに企んだ顔をして笑った。