誰だろ……?

ダイキ君かな。

何か、あったのかしら。


車を路肩に停めて、カバンから携帯を取りだした。


「……っ。」


…あいつか―――。


どうしよう。


出なきゃ…。


わかっているのに、ボタンが押せない。


「…っ!!」


今日は穏やかな気分のまま、いたかった…。

あいつの顔なんて、見たくもない。

もやもやとした不快感を、出さずに返事をすることが、こんなに難しいなんて。

これから先は、地獄。

大きな溜め息を、車内に吐き出して。

力強く、通話ボタンを押した。


「はい、石井です。」


「麻友理、―――。今、どこにいる?」


「運転してたの。店に寄ろうと思って。」


「仕事、終わったんだろ?
『jewel』で飲んでるからおいで。」


私の返事なんか関係ない。

有無を言わさないその強さに、自分の非力さを再確認した。


「わかりました。30分くらいで着きます。」


―――――。


泣くな。私。

自分で選んだ道、でしょう。

仕事が増えた、だけじゃないの、―――。