震えた手から、お盆が落ちました。
ゆっくり、
スローモーションで。



――カランカラン……



お盆が弾けて床を回っていました。



「久しぶり」

最初に話したのは岳理さん。
徐に携帯灰皿を取り出すと、煙草を押しつける。



「会いたかった。
――会いたかったよ、鳴海」


優しい、笑顔。
控えめなのに、優しさを滲ませた笑顔で、岳理さんはお兄さんを見ました。

4年間。
ただただ親友を心配した日々は、とても長くて、苦しくて。


それなのに、たった一言で岳理さんは時間を縮めました。

離れていた時間を感じさせない、柔らかな口調でした。



「あ、なたは……」

「本当に忘れちまったか」

クッと笑うと、岳理さんは髪をかきあげた。


「酷ぇ奴。俺は、忘れた事はなかったのにな」

「り……」

お兄さんは、ヘナヘナと膝をつくとその場に力なく座り込んだ。



「が……く……うっ」

「お兄さん!!」


お兄さんは急に倒れ込み、苦しそうに息をし出しました。

これ……、

これが、フラッシュバックですか?


ゼエゼエと胸を押さえているお兄さんに、岳理さんは無表情で近づいて来ました。



「過呼吸だな」

そう言って伸ばした手は、――ゾウサンジョウロでした。