でも、でもね、お父さん。

私も、努力はしたんだよ。

だから、要らないとか言わないで。

存在まで、否定しないで。



「みかどちゃん」

気づいたら、お兄さんが寂しげに此方を見ていました。

傷ついた様な、悲しい笑顔を浮かべて。


「絶対、見つけだしましょうね」

眼鏡を外され、お兄さんのTシャツで、涙を拭かれました。

ビスケットの良い匂いが鼻を掠めて、私の気持ちが少し楽になりました。



また、眼鏡を取り付けて、お兄さんを見上げる、……と?






「定宗さん……」

「え?」


カフェの両隣に植えられた、銀杏の木の上に、定宗さんの姿がありました。
あの巨大な姿で、よくあの高さに登れたなぁ……。

でも、良かっ、たぁ……。

でも、定宗さんは私に気付くと、

『ミヤァオオオ』


唸り声をあげて、逃げ出しました。

塀の上をバランスよく走っていきます。


「待って下さい!!」

お兄さんも一緒に走り出して、定宗さんを追いかけました。

右に曲がったり左に曲がったり、空き地をくぐり抜けたり、

気づいたら、小さな川の前まで来てました。



「定宗さん? 行き止まりですよ」