ジレンマ(仮)




しばらくの間、沈黙が流れた。
静かな準備室に、外で降っている雨の音だけが響いている。

絵の具の嗅ぎ慣れた匂いも、今はいつもより鮮明に匂って、こんな匂いだったのかと、冷静に感じれた。

沈黙を破ったのはカケルだった。



「もう、教室に戻ろうか・・・」


「・・・うん」



なぜか少し悲しそうに言うカケル。
どうしたのだろう?と疑問に思いつつも何も言えなかった。

美術室を出る前に、カケルが私の頭を優しく撫でてくれた。



「遅刻だけど、ちゃんと授業受けろよ?」


「うん」



私の返事を聞くと、カケルは3年生の教室までに繋がっている階段を足軽に昇っていき、姿を消した。

私も自分の教室に足を向けた。


半年間も続いているこの密会?には終わりはくるのだろうか・・・。

カケルはあれ以上のことは何もしない。
あれ以下のこともしない。

このままの状態が続いたら、私はどうなっちゃうんだろう・・・。

だけど、自分から終わりになんてできない。

カケルに私への気持ちは無くても、私はカケルへの想いで今にも心が溢れそうなのに・・・。