夜の9時少し前、裕紀くんの車の助手席に座って涼雅んちまで送ってもらう。
車のラジオから流れる夏歌が、あたしを心地良くさせる。
「この歌好き~。中学ん時によく聴いてた」
「あっ、俺も!高校ん時に友達と聴いてたわ。懐かしい~」
「ふふっ……おじさん?」
「誰がおじさんだアホ」
ハンドルを離した左手で、あたしの頭を小突く。
運転する裕紀くんの横顔を見ると、ほんの少しだけ心臓が高鳴った。
危ない、危ない………。
涼雅の家から少し離れた場所で車が急に停まった。
いつもは家の前まで送ってくれるのに。
「裕紀くん……?」
痛そうに左目を押さえてあたしの方を向く。
「コンタクトずれたっぽい……いってー!悪いけど見てくんね?」
「えっ!大丈夫!?」
あたしが裕紀くんの整った顔を覗き込むと、一気に近付く顔の距離。
そのまま触れた唇と唇。
この日初めて大切な人を裏切ってしまった……。

