「うちの建築関連…甲斐建設で周囲の風土に合わせた建て直しや改装・増築をして、KAIコーポレーションが全面のコンサルタントを行う」
「環境は今の土地色を大切にする。要は湯治町としての町おこしのようなものだ。空き家を離れ形式の宿のようにし、長期の湯治客がすごしやすい我が家のような場所にする」

及川社長、甲斐社長…そして省吾さん…新しい事業って……。

「甲斐社長がすでに交渉を始めている。構想や軌道に乗せるシュミレーションもな。君の郷里はただの田舎じゃなくなるんだ、呉羽」
「巽社長のご発案で、ビルだのって近代的なものは造らないが、移住したくなるような長閑な町がコンセプトだな。温泉街のようになりかねないって心配も今はまだあるが、まぁ任せてくれりゃいい。悪いようにはしない」
「輝一…その発言はまるでヤクザだわ」
「自分の旦那にヤクザはねぇだろ、初音ぇ」

みんな穏やか…省吾さんの目が心配いらないって…言ってる。

「ありがとうございます…嬉しいです」
「君の自慢になる場所にする…後悔させないから、任せてくれ」
「省吾さんに任せて後悔した事ないよ」
「お義父さんたちに喜んでもらえるようにしなければな」
「…征志郎?」
「どうした、リア」
「…もう食べてもいい、かな?」
「そうね、折角のお料理が冷めちゃうわ。征くんも燐ちゃんも落ち着かないみたいだし」

漸く食事を始めて、こんな大人数なんて初めてで楽しい…仕事以外のお喋りも弾んで、何だか前からよく集まってるみたいな雰囲気で。これからもこんな風に集まれたらいいな。

片付けは旦那様たちがしてくれて、私は東雲さんとリアさんとお喋りしながらテラスでお茶した。征くんと燐ちゃんはちょうどお昼寝の時間だったみたいで、もうぐっすり。ご飯は大変だったけど、やっぱり寝顔は天使なの。

「今やカリスマカフェスタッフね」
「すごい注目されてるよね、フェイバリット」
「人事は有り難迷惑って言ってる…求人してもいないのにバイト希望社員希望でガンガン電話が鳴るから」
「そうね、今は急に新人を入れる事で既存スタッフに負荷を掛けて数だけ中膨れにするより、既存スタッフをしっかり教育した上でサービスの質を上げた方がよさそうね」
「店長もそう言ってました。これも一時的なものだろうからって。甲斐社長も店長の方針に賛成して下さってるみたいですし」
「みんな呉羽さんみたくなれると思ってるのかな?」
「だとしたら浅はかね。フェイバリットの社員教育は飲食業界一厳しいのよ?バイトにもそれ相応の能力を求めるし」
「私の同期社員は九州の方に一人いるだけらしいです。入社時は十人以上いたのに」
「まぁ楽な仕事はないから」
「ホントですね…でも同じ仕事でも子育てって大変ですね…24時間営業の接客って感じします」
「お客様はお子様ですって感じ?でも毎時間サービス残業だけどね~」
「福利厚生がいいからな」
「征志郎」
「あ、お片付けありがとうございます。コーヒー淹れてきますね」

旦那様たちがテラスに出てきたから、私は人数分のコーヒーを淹れにキッチンに向かった。

「取り込んでわかったが…フェイバリットの教育や周知徹底は素晴らしいな」
「僕も呉羽さんから聞いて驚いたよ。衛生関連も完璧…」
「うちの飲食の衛生管理に疑問を持っちまいそうな徹底ぶりだしな」
「環境に配慮した上でのローコスト推進も業界最先端…関連ISOの取得も済んでいる」
「何よりスタッフにいい人材が多い…講義と模擬店講習の長さで篩に掛けられただけあるな…うちにとってはいい宝だ」
「甲斐先輩、いい買収でしたね」
「うちで買っても他の飲食と差がありすぎた。甲斐のところで正解だな」
「お待たせしました」

仕事の話をしてる省吾さんはやっぱり格好いい。そう言う姿って見る機会ないから。