「隠し事か、呉羽?」
「そんな、っ…じゃ…」
「俺に見られたら困る何かがあるのか?」

ベッドに降ろし、組み敷いて両手首を片手で軽く押さえ込む。

「あるわけな…ぁ…」
「一度、調べなければならないな…隅々、俺にきちんと染まっているかを……」

恥じらう姿は、やはり簡単に俺から欲以外を奪い、ただの雄にしてしまう。余裕の欠片すらなく呉羽を追い立てて堕として…微睡む隙も与えずにまた追い立てる。甘い蜜月のような濃密な行為ではなく、切迫した手負いの獣の狩りのような空気に近い…。
それでもそれを治せないのは呉羽が求めに応じ、俺を求めて嬌声を上げるから。執拗な攻めにイヤだと言いながらも、呉羽が俺を受け入れてくれているから…。自分が感じるのと同じかそれ以上に俺に感じる事を望んでいるのが、行動にも言葉にも見て取れるから――。
一方的な事を望まなない呉羽らしいと言えばらしく…そんなところも愛しい。

「ああ…綺麗に染まってる」
「っ」
「ちゃんと…俺色に色付いて…旨そうだ」

反応を楽しみながらじわじわと追い立てる。まだ片手で数えるほどしか抱いていないが、両親に認められ妻になった…。

「呉羽…これまでは君に好かれるようにと遠慮してきたが…妻になったからには遠慮はしないからそのつもりで」
「え…?」
「俺たちは新婚だろう?蜜月は付き物だ。いずれ新婚旅行にも行く予定だから、行きたいところがあれば言ってくれ」
「……はい」




翌々日にはインペリアルを出て新居で暮らし始めた。その日のうちに自炊の為の食材の買い出しついでに、俺から呉羽へ結納品の代わりにとワードローブに加えられる洋服を何点かと、オーダースーツ二着、ドレスを二着新調した。

「こんなにいらないよ」
「俺の妻だ。これからは今まで以上に人の前に立つ事も増える…人目に晒したくはないが、晒すなら周りが嫉妬するほど美しい姿がいい」
「そんな綺麗じゃないよ…私なんて…」
「俺にとって最上級だ…それだけで十分だ」

謙虚すぎる呉羽は自分の出身にコンプレックスがあるせいか、自分がどれだけの視線を集める存在だかを理解していない。それを逆手にとった男にどれほどか騙されて付き合わされて来たのかもしれない。だから鬼頭のような同郷ではあるが、離れた事を理由に好きになった女を放置するような男にひっかかってしまったんだ。
それもこれまでの事だがな。呉羽は俺が守る。仕事絡みで不穏な輩が近付く事もあるだろうが、そんな隙すら与えない。
実は近々、フェイバリットの頂点にあたるフェイバリット・ジャパンはKAIコーポレーションに経営統合される予定だ。末端に当たる店舗社員にはまだ知らされていない。フェイバリット・ジャパンの海外本社、フェイバリット・グループ社長の不祥事を受け、フェイバリット・ジャパンはKAIコーポレーションに売り飛ばされた形になる。

数日後、大々的に報道されて店にも報道陣が押し掛けたが、木下の指示で取材に応じる事はなかった。

「アメリカ本社での不祥事について社員さんとして、どうお考えですか?」
「いらっしゃいませ、お持ち帰りでしょうか?」
「KAIコーポレーションに経営統合される事について…」
「恐れ入りますが、メニューがお決まりでないようでしたらそちらに少しお避け頂いてお選び下さい。お決まりになりましたらうかがいます。お次でお待ちのお客様どうぞ」

実は次もその次の客も報道関係で…営業妨害だと木下がキレて警察を呼ぶほどの騒ぎになったらしい。その間も呉羽は我関せず接客を続けていたそうだ。


翌日には甲斐社長が店を訪れた。全国三指に入る売り上げに、トップの来客数を持つ木下の店舗を今後は新人研修や運営本部扱いとする為だ。木下は元より呉羽の手腕を買っての事らしい。


店の入っていた三階建てビルの全てを買い取り、本部や研修用の部屋、模擬店舗に改装され、本部はそこに移された。

呉羽は忙しくなったが、俺との時間を割く事には余念なく努めてくれる。



そして二週間後には、KAIコーポレーションの甲斐夫妻・及川商事社長と副社長夫妻、そして巽産業の俺と呉羽、フェイバリットから木下が経済誌トップの【executive NewS】から合同取材を受ける事となった。
数奇な縁だが、付き合いは長く続きそうだ…俺と呉羽のように…―――。