ただ、名前を呼んで


そこに居たのは年輩の夫婦。会ったこともない二人だった。

だけどその振り返った女性の顔を、僕は知っている気がする。


その、緩い目元。

そうだ……母の目だ。


その瞬間に僕は全てを理解した。
彼らは母の両親、つまり彼らも僕の祖父母なのだ。


言葉を発せないまま立ちすくむ。ただ、視線は初めて会う祖父母から逸らせなかった。

すると男性の方、祖父の形相がみるみる変化してゆく。

睨まれれば凍りそうなほど、冷たい冷たい視線。
僕は蛇に睨まれた蛙のように身をすくめる。