『今日は人が少なくって良いね。』


その声と共に映し出されたのは、少し若い母だった。

髪は肩ほどまでで、薄いピンク色のカーディガンを羽織っている。

母はコロコロと子犬みたいに無邪気に笑い、僕の胸がキュッと締まる。


『気を付けないと転ぶよ。』


そして聞こえた男性の声。落ち着いた口調の、心地良く低いトーン。


『大丈夫よ!心配性だなぁ拓郎は。』


母がこちらに笑いかける。
ビデオを撮っているのは父なんだろう。

父の声を聞いたのはこれが初めてだった。