ただ、名前を呼んで


黙り込む僕を祖父は心配そうに見つめていた。

ハッとした僕は浅く笑い返すと、口を開く。

なんだかみっともないような、情けないような、僕の本音。


「嫌いじゃ、ない。ただ、ズルいと思う。」

「ズルい?」


僕は小さく頷くと、ソファーにぶら下がった二本の細い足をゆらゆらさせた。


「お母さんと僕を残して先に死んだ。逃げたんだ。それなのに……お母さんの心は持って行った。」


上手く言葉に出来ない自分自身がもどかしい。

祖父はふむ、と小さく唸った。